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頑張るつもりだったんですけど、仕事でいっぱいいっぱいです。
余裕まったくありません。
他のサイト様でたくさんお祝いされるようなので、今年は読者側になることにしました。
草葉の陰で博士をお祝いしたいと思います。
なので、19日何もありませんよ~。
長々たらたらとホント申し訳ないです。
ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございました。
陽だまりの唄これにて完結です・・・が、その前に。
15日 AM3:07のコメント下さった方へ
コメントありがとうございます。
そして教えてくださってありがとうございました。
直しました~。
では、『陽だまりの唄12』ラストです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
陽だまりの唄 12
「麻衣っ!!」
強い声と力に揺さぶられて我に返った。
停止していた五感が一気に周りの状況を麻衣に伝える。ここは見慣れたオフィスの給湯室でなぜだか床に座り込んでいて。そして目の前にいる険しい顔をした美貌の主は・・・
「あ、パパ」
麻衣の口からぽろりと言葉が零れた。
ハッとして慌てて口を押さえるが時すでに遅く、ナルは目に見えて硬直し、見る間に顔から表情が抜け落ちていく。漆黒の瞳が眇められ、そこに不穏な色が宿るのを見た麻衣の背に嫌な汗が伝う。
湧き上がった恐怖に身を引くが、ここは狭い給湯室。直後にガツリと鈍い音が響いた。
「った~」
打ち付けた頭を押さえて呻く麻衣に、「馬鹿か」と呆れも優しさも感じさせない冷たい声が飛んできた。
「目を開けたまま寝るとはずいぶんと器用ですね、谷山さん」
しかも嫌味も忘れない。
「・・・・・・寝てないもん」
「へぇ。なら僕がいつここに来て、何回名前を呼んだかご存知ですよね」
にっこりと微笑まれ、麻衣は言葉に詰まった。その答えを持ち合わせていない。
きまずさにうろうろと視線を四方に飛ばしていると、強い力で顎を掴まれナルの顔がぐっと近づく。
「聞いてるのか」
(近い近い近い近い近いっ!!!!)
吐息が触れる距離に頷くこともできず、麻衣は両手で降参の意を示した。
「ごめんなさい。意識飛ばしてました」
冷たい視線をひとつ寄こして美術品のような顔が離れていく。麻衣はほ~っと息をついた。いくら慣れているとはいえこの近距離は心臓に悪い。
「で?」
質問の意図が掴めず首を傾げると、ナルは疲れたような溜息をついた。なんだようと頬を膨らませればぎろりと睨まれた。
「何か視たのか?」
「ああ」
それかと右手の平に左手の拳を打ちつける。そして首の角度をさらに深くし、考えて、考えて・・・麻衣は頭を掻きながらヘラリと笑う。
「無能」
麻衣が言うよりも早く、辛辣な言葉が飛んできた。こんなつうかあの仲は嫌だ。
返す言葉もなく項垂れていると、ナルが音もなく立ち上がった。つられるように視線を上げ、膝のホコリを払う姿をぼんやり見つめていると右手が差出される。その手に自らの手を重ねると、ぐっと引き上げられた。勢いあまって危うくナルの懐に飛び込みかけて踏みとどまる。
「気分は?」
探るような視線にVサインを送れば、すかさず額に平手が落ちてくる。心配させるなと言われた気がして、麻衣は小さくごめんと呟いた。
「これ」
ふいに差出されたのは、表面に透かし彫りが施された二つ折りの丸いシルバーのコンパクトミラー。
「うん。あれ?それどこにあった?」
それは麻衣の父が母に贈ったもので、母が亡くなると同時に麻衣の物となった鏡。昨夜ふとその存在を思い出し、遺品の中から引っ張り出した。辛くて手に取ることのできなかったそれを今なら使える気がしたからだ。そして確かバックに入れていたはず。
給湯室の隅にある麻衣のロッカーを見れば扉が開けっ放しになっていた。あぁ、そうだ。確かあそこで鏡を見ていたはず・・・ってことは?
麻衣が答えを出す前にナルの右手が床を指差した。
「落ちてた」
その答えに麻衣は顔色を変えて悲鳴を上げた。
「麻衣、うるさい」
「わ、割れてない?壊れてない?傷ついてないよね!?」
黒い腕をがしりと掴み、手元を覗き込む。
「お前同様頑丈だな」
失礼極まりないセリフだが、今はこれほど嬉しい言葉はない。
「形見ならもっと大事に扱え」
思わず目を瞬く。この鏡の事をナルに話たことがあっただろうか。
「もしかして、見えた?」
「少しだけ」
受動的な言葉に、ナルは苦笑する。その顔を見つめ、「いいなぁ」と呟くとナルが怪訝な顔をした。
「だって、あたしのお父さんとお母さん見たんでしょう」
麻衣は寂しそう笑うと鏡に視線を落とした。
小さい頃に亡くなった父、そして数年前に亡くなった母。母との思い出はまだ鮮明にこの胸にあるが、父とのそれははほとんどない。当時の麻衣の年齢を考えれば仕方ないことだと理解しているが、再びふたりの姿を見ることができるなら麻衣はどんなことをしても見てみたいと思う。ナルの能力が痛みを伴うものだとわかっていても、こう言う時羨ましく感じてしまうのを止められない。
「ね。あたしの能力、コントロールできるようになればナルみたいに見れるかな?」
「さぁ」
「そこは嘘でもできるって言うとこでしょう」
「僕は嘘は言わない」
融通の利かない男だ。時と場合を知らないのか。
「言葉ひとつで部下の意欲は向上するのに」
「餌がなければ義務を怠るような部下に与える言葉は持ち合わせていない」
麻衣はぐっと言葉に詰まった。ナルの言うことは正しい。能力者が自らの力を制御するのは義務だ。それをしなければ歩く災害になりかねない。正論だが、しかし。
「冷たい」
「事実だ」
けんもほろろな言葉に麻衣は唇を突き出した。
「だが、お前が勝手に希望を持って勝手に努力するのは自由だ。頑張るんだな」
ただし、僕の手の届く範囲内でと注釈が付けられた。
心配してるのかと嬉しさが込み上げる。だが「データと平穏のため」の言葉に乙女的思考を打ち砕かれた麻衣は顔を歪ませた。先程の胸の高鳴りを返せ。
「わかったのなら、お茶」
「はいはい。わかりましたよーだ」
「はい、は一回」
べーっと舌を出す。ナルに優しさを求めるだけ無謀なのだ。わかっていたはずなのに望んでしまうなんて、自分の学習能力なさに呆れる。
ため息をつきながら差出される鏡に触れた。
『頑張れ~』
おや?
麻衣は目を見開き、目の前の人物を見上げる。ナルは眉間に深く皺を刻み鏡を見つめていた。
ナルと同じ魅惑ボイス。だが今の声には彼にない明るさが含まれていた。しかもナルはあんな言い方はしない。
「えと、今のってナルじゃ・・・ないよ、ね?」
恐る恐る尋ねると、鏡を見つめていた瞳がひたりと麻衣に向けられた。そこに驚きの色が浮かぶ。
「ナル?」
「・・・・・・聞こえたのか?」
こくりと頷くと、ナルは人差し指を唇にあて考え込むように視線を伏せた。
彫像のように動きを止めたナルの顔の前で、ひらひらと手を振ってみるが反応はない。さてどうしようかと麻衣も考える。なぜ突然考え込んだのかはわからないが、彼がこの状態になると現実に戻ってくるまでが長いのだ。
まずはお茶でも淹れるかと思ったが、ナルが立っているのはシンクと壁の間。つまり給湯室の中央だ。お茶を淹れることは可能だが、はっきり言って邪魔以外のなにものでもない。
壁際まで押してみようかとナルの背後に回り、背中に手を触れさせたようとした時だった。
「なるほど」
低いテノールが楽しそうに呟いた。思いのほか早い戻りだ。
「僕としたことが、こんな大事なことを見落とすとは迂闊だったな」
横から覗き込むと、ナルがうっそりと黒い笑みを浮かべていた。
ひっと小さく悲鳴を漏らすと、ナルは笑みを浮かべたまま麻衣を振り返る。
「麻衣」
「な、何?」
「実験に付き合ってくれ」
「へ?今から?」
「確かめたいことができた」
時計を確認すれば6時半を回ったところ。
ナルの実験は2時間3時間は当たり前。今から始めるとなれば9時、最悪日付が変わる。
麻衣は不満を露わにした。
「あたし8時から見たいテレビあるから嫌」
お腹もすいたし明日にしようよ、と訴える。
「今日できることを明日に回すなど時間の無駄だ」
「今の時間を考えろっ!」
「夕飯を奢ると言ったら?」
ナルの珍しい提案に麻衣は目をぱちくりとさせた。
「確か、新宿にできたイタリアンの店に行きたいと言ってなかったか」
「・・・・・・言った。連れてってくれるの?」
「麻衣が協力してくれるなら」
「奢りだよね」
「当然」
その答えを聞いて、麻衣は渋面から笑顔に変えて二つ返事をした。
前から行きたかったその店は、如何せん値段がそれなりに高く二の足を踏んでいたのだ。連れてってくれる上に奢りとなれば断る馬鹿はいない。テレビなんてこの際どうでもいい。
「じゃあ、お茶淹れてくね」
「あぁ。そのまま所長室に」
はーい、と麻衣の良い子の返事を聞くと、ナルは機嫌良さそうに給湯室を出て行った。
なんだかわからないが得をした。ラストオーダーが23時だったはずだから、4時間は付き合ってもいいなと麻衣は笑う。
だが麻衣は忘れていた。相手が泣く子も黙る仕事の鬼だと言うことを。
◆ ◇ ◆
給湯室から麻衣の機嫌良さそうな鼻歌が聞こえ、ナルは笑った。
彼女は本当に単純だ。肝心なことを確認していないことに気付いていない。
「誰も今日とは言ってないんだがな」
気付いた時には後の祭りだ。喚こうが怒ろうが、協力するとの言質は取っている。時間の許す限りじっくりと研究させてもらおう。
ナルは資料室のドアを叩いた。
程なくしてリンが顔を出す。
「今から麻衣の能力実験をする」
「今から、ですか?」
麻衣同様、リンも時計に視線を滑らせた。今からでは遅くなるのではと、僅かに眉を寄せる。
言葉が表情にのっていたが、ナルは意に介した風もなく淡々と言う。
「オフィスを閉めてくれ。ぼーさんたちが来たとしても追い返せ」
この時間からイレギュラーズが来るとは思えなかったが、万が一を思って釘を刺す。
「それから、リンが帰るとき報告はいらない」
要約すると邪魔をするな、と。
リンがオフィスを出るのは午前様が常だ。それはナルも同じことで重々知っているはず。つまりその時間まで麻衣を拘束すると宣言してるも同じことで。
「ナル」
いくらなんでもそれはまずいのでは。
諫めるように口を開くと、上機嫌な声がリンを呼んだ。
「リンさん、お茶でーす」
足取り軽やかに近づいてきた麻衣はトレーを抱えていた。上には湯気くゆる紅茶が入ったカップが3つ乗っている。その内のひとつを手に取り礼を述べると、麻衣は嬉しそうに笑った。
あまりに純粋な笑顔に、リンの胸はズキリと痛む。気付いていないらしい彼女に告げるべきか。
「麻衣。さっさと来い」
「はーい」
所長室の扉を開けて待つナルの元に、麻衣パタパタとかけていく。
「谷・・・」
「リン」
咄嗟に呼び止めようと声を上げるもナルに遮られ、麻衣の姿は所長室に消えた。
「お疲れ」
これまた要約するなら、とっとと帰れだ。
麻衣の後に続いて所長室へと足を踏み入れたナルは、ちらりとリンを見て―――嘲笑った。
ぱたりと軽い音を立てて所長室の扉は閉まった。もう何も聞こえない。
リンはカップを一旦自分のデスクに置きオフィスの入り口へと向かった。ドアのプレートを『close』に変えなければならない。
彼らの夜は長い。ついでにコンビニで食料を調達してこよう。ナルは平気だろうが、麻衣に空腹で仕事をしろなどと言うのは酷だ。それで能率が下がれば件の博士の機嫌も下がり、当然麻衣の機嫌も悪くなる。これで良いデータなどとれるはずがない。そして明日彼女のお茶が飲めなくなるのは、リンとしても痛い。
人として心配しながら、研究者としても心配してしまう自分に、ため息が零れる。所長室の扉を見ながらリンは、そっと麻衣に謝罪した。
そして思う。
明日は2人分の朝食を準備して来なければならないな、と。
END
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予定残り1話。
書き終わってみれば2話分の長さ。
blogでこの長さはまずいよね、やっぱ。
ってな訳で、うふふふふ~と笑いながら全12話に変更。
これから12話目を最終チェックして、明日UPします。
それで完結です。
では、『陽だまりの唄 11』をどうぞ~。
陽だまりの唄 11
目を丸くする麻衣を横目に、ナルは白衣のポケットからあるものを取り出した。
それは研究室のソファにあったあのコンパクトミラー。
「これって、ナルの?」
「いや。借り物」
「誰に?」
ナルが鏡を持っていることも意外だが、人の物を持っていることはもっと意外だ。彼の持つ能力を考えれば、それはありえないことだった。
驚きを露わにする麻衣にちらりと視線を向け、ナルは二つ折りの鏡を開いた。それに自分の顔を映すと鏡面を指差す。
「ジーンっ!」
鏡の中のナルがにこりと笑う。本人に目を向ければ仏頂面だ。
「な、なんで!?」
「お前に父親の姿を思い出させたかったらしい」
「意味わかんない。なんで突然そんな事思ったの?」
「そんなことは直接この馬鹿に聞け」
「どうやって?あたし今寝てない」
「鏡に手を乗せろ。それで繋がる」
「あたし、ナルたちのようなテレパシーみたいなのないよ」
困惑する麻衣にナルは面倒臭そうに口を開いた。
「麻衣とジーンの波長は近い。つまり僕にも近いということだ」
ジーンとの波長は彼が死んだことによりアンテナがズレてしまったが、それでも媒体があれば繋がる。つまりはまだ近いということ。ナルとジーン、ジーンと麻衣。となれば、麻衣と自分も可能なのだとナルは言う。
「お前の頭でもわかるように言えば、三角関係図だな。それを思い浮かべろ」
洒落にならない例えだ。
「僕が視たものをジーンが中継するように、今回は僕が中継してやる」
「うまくいかなかったら?」
期待してやってみたらダメだったら落胆しそうだ。その場合にはトランスして会いに行けばいいのだろうけど。
その思いを読み取ったのかナルはうっそりと笑った。
「この僕がこんな簡単なことに今気付いたと思うか」
麻衣はそっと目線を外す。
この未来に来るまでに、恐らくきっと自分は彼の実験につき合わされるのだろう。どんなことをするのか知らないが、麻衣は自分の未来ををちょっと哀れんだ。
「麻衣」
促され、おずおずと鏡に指先を乗せた。すると―――
『麻衣~v』
「!」
咄嗟に手を引っ込める。
聞こえてきたのは、すぐ隣にいる人とよく似た、それでいて幾分高く優しく、そしてハイテンションな声。
縋るようにナルを見ると、彼は目線のみで続けろと鏡を指し示した。それに頷き再び指を触れさせると、今度は逃げぬように鏡ごとナルの手に捕らわれた。
『聞こえる?』
こくこくと何度も頷くと、鏡の中のナル―――ジーンは嬉しそうに笑む。
『ごめ~ん。ちょっと失敗しちゃったぁ』
「「・・・・・・ちょっと?」」
ソプラノとテノールが綺麗にはもった。
『調査中でもないのに何でか目が覚めちゃってさ。ナルと麻衣を探したら、何だか麻衣お父さんのこと覚えてないって寂しそうにしてたじゃない」
「そう・・・なの?」
覚えてないので首を傾げる。
『そうなの。いつも麻衣に怖い思いさせてるお詫びに、麻衣の中の記憶を夢で見せてあげようとしたんだ』
そしたら結果がこんなことに。何でかなぁとジーンはあははと笑う。麻衣もつられる様に笑うが幾分口元が引きつった。ナルを見れば眉間の皺が徐々に深く刻まれていき、機嫌が低下していくのが手に取るようにわかる。
「あたし、帰れる?」
『もちろん。僕が責任を持って連れて帰るから、大船に乗った気でいてよ』
失敗したと言った矢先の自信満々な発言に不安が湧き上がる。まかせて大丈夫だろうか。
「一度失敗した奴が大船とはよく言う」
『ちょっとしたミスだよ。弘法にも筆の誤り、だっけ?』
「便利な言葉だな」
『事実だも~ん。じゃあ、麻衣帰ろうか』
「へ?」
非常にあっさりと『帰宅』宣言をされた。思わず頷きかけ、麻衣は慌ててジーンを呼び止める。
『麻衣?』
「あたしもジーンに謝りたいことがあるの。あたしすごい自分勝手で、ジーンに対して」
『ストーップ。麻衣、内緒話しようか』
「ひどいことを・・・え?」
『内緒話』
「ジーン」
苛立たしげな声がそんなことをしている場合かと言う。だがジーンはあっけらかんと笑い飛ばした。
『少しくらいいいじゃない。1時間や2時間話すわけじゃないんだし。君はいいよ。麻衣と好きなときにお喋りできるんだから。でも僕の場合はいっつも調査中でのんびり話せる状況にないんだよ。僕だっていろいろと麻衣と話したいのにさ。そんな可哀想なお兄ちゃんの為に数分程度待てないなんて、君がそんな狭量だとは思わなかったよ。だいたい君は』
「わかった。数分だけ待つからさっさとしろ」
『じゃあ、麻衣。お許しが出たところで話しようか。僕にはちゃんと聞こえるから声に出さなくて良いよ。それからナル、覗き厳禁ね』
ナルが嫌そうに顔を顰めた。
『麻衣、いいよ』
どこがどう変わったのかはわからないが、ジーンの許可が出る。
ちらりと横を見ると、ナルがそっぽを向いていた。何だか不貞腐れているように見えるのは気のせいだろうか。
『あははは。不貞腐れてると言うよりは妬いてるだけな気もするけどね』
(妬く?何で?)
『それはおいおいわかることじゃないかな。それより麻衣。さっきの話だけど、君は何も悪くないよ』
(でもあたし、あんなに助けてもらってたのに優しくないなんてひどいこと思った)
『前にも言ったよね。僕は君を利用してたんだ。だから麻衣がそう思うのは当然。君は悪くない』
2度言われた言葉に、麻衣はでも、と呟く。
『それなのに君に謝られたら僕の立場がないよ。すっごい悪者みたい』
「みたいじゃなくて、その通りなんじゃないか」
『ちょっとナルっ!覗き厳禁って言っただろう!!』
「ガードが緩んで勝手に聞こえてきたんだ。文句があるならきちんと遮断しろ」
『はいはい。と・に・か・く、そういうことひっくるめてのお詫びだったんだけど。ごめんね、麻衣』
(ううん。・・・あたしもごめんね)
どうしても謝罪の言葉を零す麻衣に、ジーンは苦笑する。
『じゃあ、お相子ってことにしようか』
(うん)
「ならもういいな」
ほんわかとした雰囲気を冷ややかな声が壊す。
ぷらいばし~と言う恨みがましい声が聞こえてきたが、ナルはそれを無視して麻衣に視線を向けた。
「今からお前に暗示をかける」
「暗示?」
「ここで見たこと聞いたこと、すべて忘れてもらう」
「え・・・」
笑みを浮かべるナルの顔を最後に、麻衣の視界は闇に覆われた。頭を抱え込むようにして目を覆うのはナルの手。そして耳元で落ち着いたテノールの声が囁く。
「ゆっくりと深呼吸をして、体から力を抜け」
『そして意識を僕に向けて』
左からナル、右からはジーンの声が聞こえてくる。
2人がかり!?と内心驚きながらも言われたとおりにすると、ふわりと簡単に意識が浮き上がった。
「今、麻衣の目の前には小さくて頑丈な箱がある」
闇の中にぽんっと宝箱のような箱が浮かんだ。
『その中には、麻衣がここで見て聞いて感じたものすべてが入っているんだ』
「その箱には鍵がついている」
『さぁ、右手に持ってる鍵で箱に鍵を掛けよう』
麻衣は箱の鍵穴に、いつの間にか持っていた金色の小さな鍵を差込み回す。カチリと小さな音がした。
「その箱は叩いても落としても壊れないほど頑丈だ。鍵がなければ開かない」
『あぁっ!でも大変。鍵が壊れちゃった』
言われて鍵を見れば手の中には原型すらわからないほど砕け散った金の欠片が乗っていた。
『でも大丈夫。この箱はちょっと特殊でね。ナルがある呪文を唱えるとこの箱は開くんだ。そしたら箱の中にあったものはすべて君の中に戻る。じゃあ、呪文を教えるよ』
麻衣は箱を見つめたまま頷いた。
『 』
ジーンの囁いた呪文は、確かに聞いたはずなのに瞬きひとつ分の時間をおいて溶けて消えた。
『さぁ、麻衣帰ろう』
ジーンの声を最後に、麻衣の意識は急速に闇引っ張られた。
「なんだ今のは」
鍵を壊すなど予定していない。しかも馬鹿馬鹿しい『鍵』まで。
力なく頽れた小さな体を抱き止めながら、ナルは鏡の中の兄を睨みつけた。
『鍵は頑丈なのに限るでしょう。間違って開かないように、ナルが言わなそうな言葉を選んだつもりだけど、まさか過去に言ってないよね?』
嫌そうな顔をしたまま頷くと、ジーンはほっとしたように口元を綻ばせた。
『本当は呪文、「愛してる」にしようと思ったんだ。でも結婚までしといて言ってないなんてありえないから止めちゃった。あとはねえ、世界で一番愛してるのは麻衣とジーンだとか・・・あ、これだと一番じゃないか。まぁ、いいや。他にはナルと麻衣とジーンで×××・・・って、ちょっと鏡壊れるって!!冗談だよ、冗談!』
殺気の篭った瞳と手の力に、ジーンは鏡の中で慌てる。
どうしてくれようかと暗い思考を巡らせていると、聞き覚えのあるソプラノが聞こえた。
「ナル!」
声のする方を見れば、考えるまでもなく彼の妻が笑顔で走ってくる。時計を見れば聞いていた彼女の戻り予定を若干過ぎた頃。研究室にいなかったため探しにきたのだろう。
問答無用で鏡を閉じポケットに落とすと、ラインを通じて溜息が聞こえたが無視だ。意識のない娘を腕に抱えなおし、妻を迎えるべく立ち上がると今度は忍び笑いが聞こえた。
『ちゃんと麻衣の暗示解くんだよ、パパv』
「ジ」
「ただいま~」
とすんと軽い体がナルにぶつかってきた。栗色の髪がナルの首筋をくすぐる。
「麻衣」
「ありゃ、寝ちゃってるねぇ。遊びつかれたのかな」
腕に抱かれた娘の頬を軽くつつきながら麻衣は幸せそうに笑う。
こっちの苦労も知らずに。ナルは眉間に皺を刻む。
麻衣に当たるなどお門違いだが、八つ当たりしたい気分だ。
「麻衣」
「なぁに・・・んっ」
後ろ頭を右手で押さえ強引に口付ける。歯列を割り舌を絡ませすぐに離れた。
「・・・っななななな、なんなの急に!」
顔を真っ赤にし今だ初々しい反応を返す妻に、「今はこれで許してやる」と返すと彼女は怪訝な顔をした。
意味がわからないのも仕方がないし、今話す訳にもいかない。記憶はまだ彼女の中に封じられたままなのだから。
ナルは面倒だなと思いつつも、麻衣の華奢な体を抱きしめ小さな耳に唇を寄せた。
ジーンの置き土産、『呪文』を口にするために。
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